この6日間、月面写真を掲載してきましたが、一昨日曇って途切れました。昨日の関東南部は集中豪雨でした。ここで撮影は一旦終了して、今回の月面写真の撮影、画像処理が従来の一枚撮りと違い、なぜ多数枚撮影をしているのか、現状試行錯誤中の画像処理を書いておきます。
まずこの多数枚撮影のきっかけは、天体写真家山野泰照氏の作品展「虚空の如くなる心 宇宙の絶景を求めて」で拝見した巨大な高精細月面写真でした。
山野氏は展示写真の撮影データを開示されていて、月面写真が拡大写真のパノラマ合成ではなく、15cm屈折天体望遠鏡、ミラーレス一眼カメラの直接焦点法で撮影され、300枚といった多数枚合成であることが書かれていました。
この撮影方法は筆者も行っている惑星写真の動画スタックと同じです。ですが月面写真はフィルムカメラの頃から一枚撮りで行うものという固定観念が強くて、この発想はありませんでした。
最近、月刊誌「星ナビ」で山野氏がこの撮影の連載を始めていますが、まだ撮影機材と撮影方法の解説までで、画像処理については明後日発売の号から載るということです。
筆者は雑誌掲載の前、1月から試行錯誤を始めていますが、ここに今までの成果?を記載しておきます。(山野氏から手法が公開されてからだと恥ずかしくて出しにくいので)
サンプルとして、今回の撮影で一番シーイングが悪かった、そして最も撮影したかった上弦の月の写真を用います。
・撮影方法
筆者の撮影機材に35mmフルサイズセンサーをカバーする、像面が完全にフラットな光学系は無く、40年使い続けている16cmニュートン反射望遠鏡(タカハシMT160)です。ただし、ニュートン反射は周辺がコマ収差が大きいので補正レンズとしてコレクターを入れます。この時焦点距離は1330mmです。APS-Cサイズのイメージサークルでギリギリです。
カメラはNikon Zfc=DX(APS-C)サイズ2000万画素、ミラーレスで電子シャッター、スマホリモート操作により無振動で秒10コマ撮影して枚数を稼ぎます。
・画像処理方法
多数の画像をスタックするには惑星撮影と同じ「AutoStakkert」を使います。ただし「Image Stabilization」パネルで「Planet (COG)」ではなく「Surface」を用います。
筆者は山野氏に教えてもらうまでこのアプリで大きな画素数の画像を扱えるとは知らなかったので大きな発見でした。
惑星なら「Registax」というアプリで画像復元処理するのですが、これは大きなサイズの画像が扱えません。そこで「Photoshop」の「スマートシャープ」フィルターでピクセルを1.2>1.0>0.5というように多段階でシャープネスを上げていきました。
惑星撮影と同等の処理はここまでです。さらに星雲の処理に使う「ハイパス」フィルターをかけた画像をレイヤーで重ねることも画像によりやっています。特に満月のような平坦な画像には良さそうです。
16cmニュートン反射望遠鏡(タカハシMT160+コレクター)f=1330mm直接焦点
NikonZfc(1/125秒、ISO100)148枚RAW撮影、NXStudioでJPEG変換後、AutoStakkert_3.0.14(Win)90%スタック、フォトショップ(Mac)、色、トーン調整、スマートシャープ調整
2023年7月26日 19時07分40秒〜08分50秒
ブログの画像は大きさに限界があるのでこの画像の分割写真を下に出します。
45年前自分で初めて月の直焦写真を撮った時を思うと感涙ものの解像度なのですが、やったことのない普通の人にはわからないと思いますので、多数枚撮影ではなく一枚撮影で同じ画像処理を加えるとどうなるのか確認します。
まずRAW現像のみ。上部のクレーターが気流の影響でボケています。このように一枚画像ではシーイングの影響を受けてしまいます。なかなか全面絶好のシーイングに会うことはありません。
それでは画像処理でどこまで救えるか、スマートシャープの多段処理です。部分的なボケはどうしようもありません。
PhotoshopのRAW現像時AI強化処理をしてみました。ノイズは目立たなくなりますがありもしない地形が出てきました。
わかりにくいので拡大してみてみます。
多数枚スタック後多段階スマートシャープ
RAW現像のみ
多段階シャープ
AI強化処理後多段階シャープ
このように多数枚スタックの効果は大変大きいようです。今回のような悪シーイングでは月面写真は難しかったのですが、数十枚以上重ねて平均化するとかなり救済できることがわかりました。
ただし、良いシーイングであれば一枚撮りでこのくらいには写ると思います。そこからさらに高精細写真にすることが先述の山野氏の連載記事に書かれると思うので楽しみです。