さて、結構一生懸命書いてしまったこのシリーズですがいい加減にしないと皆さん引いてしまいそうなので今回でいったん完結します。こうしている間に日本シリーズはダイエーが優勝してしまいましたし。(無関係)
6-5.グラディエーション
スキャナの仕様の中に入力8bitとか12bitとかありますが、これは一色あたりの階調(8bit=256階調)であることはご存じでしょう。
パソコンでいうフルカラーとは各色8bitで合計で24bit=1677万色である。
昔まだDOSマシンが16色とか256色とか言っていた頃に、Macでフルカラーが出たのでデザイナーが使いだしたのであるが、今では普通の機能になってしまった。
フルカラーのでないパソコンで使うためにインデックスカラーを用意して256色でも自然画が出せるよう最適なパレットを用意できるようにするソフトもある。フルカラーならこれだけ色があるからその心配はない、と思うでしょう。だったら8bitで十分なはずである。
ところが先述のように一発でドンぴしゃにはスキャンできないので、そこから階調を整えようとレタッチを重ねていくと、トーンジャンプという階調飛び(そのままか)が起こる。
たとえば第三回でお見せした尾瀬の写真を見てみると最初のスキャンの状態a.では暗めになっているのでこの暗い部分を明るくしたい。するともともと0-50だった階調を0-100まで引き伸ばすようなことをすることになる。(この場合明るさの階調のこと)するとデータ量が2倍になるのに、元データは変わらないのだから、その間はひとつおき(正しい表現ではないが)の階調しかない。これがトーンジャンプである。これはソフトで補完することができるが、Photoshopではこの作業を「ぼかし」という名の通り、ぼかして補完するので元絵に比べ劣るのは直感的に分かってもらえるだろう。これがもっとひどくなると補完しきれずにグラディエーション部分ががたがたになる。次の例を見てほしい。
1. 8bit入力(クールスキャン2)
2. 12bit入力(LS-2000)
空のグラディエーションを見てほしい。一目瞭然だろう。
この作例は「尾瀬の記憶」84年7月の写真であるが、朝もやの中でニッコウキスゲを逆光でとらえ、かつ階調が飛ばないような露出が得られた僕としては貴重な;)写真である。なのにクールスキャン2ではどうしても思うようなスキャンができずあきらめていたが、LS-2000ではかなり再現できた。
実はこのあたりはニコン製のフィルムスキャナの弱いところのようで、最近はなかなか良さそうなスキャナも出ている。LS-2000はシャドウには救済手段があるが、ハイライトにはない、と評価されることもある。だがここではハイライトもうまく出せたと思うがいかがだろうか。
6-6.裏技?
最後に僕が重宝している裏技?を公開しよう。もっとも天体写真の本に載っていたことであるが。それはポジをネガの設定で読んだり、ネガをポジの設定で読んだりすることである。どうもこの辺はスキャナドライバのブラックボックスの中なのだが、ネガ、ポジの処理の出来が違うようなのである。例えばネガフィルムはベースが赤いのでそれを自動補正しているところがうまくいっていない、とか。逆にポジはコントラストが強いのにポジだからといって階調いっぱいに引き伸ばして、それを失敗してハイライトが飛ぶ、それをネガ設定にするとシャドウと見なすので階調がつぶれないようにする、ようなことだろうか。これは想像でしかないので誤解の無いように。さらにはLS-2000では、アナログゲインアップはネガでは使えなかったりする。これも使うにはわざとポジでスキャンするしかない。(これは最新バージョンで改善されたようだ)
1. ポジをポジ設定でスキャン
2. ポジをネガ設定でスキャン
なお、これは当然あとでレタッチで反転しているのだが、ほかにも色補正をやっている。だから必ずしもスキャナが原因でこうなるとは言えないが、クールスキャン2からLS-2000という一世代新しい、上級のスキャナに切り替えた結果、レタッチがかなり楽になったのも事実である。
7.まとめ
ということで一応この連載?は終わるが、デジカメばやりの中でフィルムスキャナが今後どんな展開を見せるか、いささか心配である。
簡単、一発が優先される傾向の中で、肝心の原版データ保持性能がどこまで考慮されるか。これまで見てきたように原版データが良いものが見栄えも良いわけではない。するとユーザーの声と称して、スキャナの性能が悪い云々がでてきて、それを写真を知らぬ企画、設計部門がユーザーの声優先だと、見栄えにばかり走る危険がある。
そもそも今まで使ってきたスキャナも、ハードの性能をソフトが生かし切っていない印象を強く受けている。例えばLS-2000だって、せっかくアナログゲインアップという優れた機能を持ちながら、それはネガでは使えない仕様なのだ。これなんかは写真を知らぬソフト屋が、「ネガをゲインアップしたらシャドウではなくハイライトが明るくなるので意味がない」なんて思ったのではないだろうか。(実際はハイライトの階調が出せるから効果絶大)
本当に、最近のカメラやデジカメ何かを見ても「おまえら本当にカメラしってんのかよ」と言いたくなるような仕様がある。ユーザーも写真の撮影方法も良く知らないくせにカメラのせいにする。特にデジカメではパソコンユーザーが初めて買ったカメラ、と言う傾向が強く、呆れるくらいなにも知らないことが多い。このユーザーを単純に統計処理して次期製品の仕様決定に使われたのでは、間違った方向に行くのではないか心配になる。
フィルムスキャナは少なくとも銀塩写真を撮る人を対象にしているのだから、もっと、簡単処理ではなく、手間がかかっても最後は写真再現性を重視した性能を優先してもらいたいものだ。カメラについてはまた書くぞ;)
1999年10月31日