naka-maの心言・2

http://naka-ma.tea-nifty.com/butubutu/ 「naka-maの心言」続編です

ぶれ補正レンズ(1)(2001)

ぶれ補正レンズ(1)

ニコンから「手ぶれ補正レンズ」AiAF VRズームニッコールED80-400mmF4.5-5.6、230000円が発売になった。(VR=Vibration Reduction)ようやく、やっと、おくればせながら、という接頭語をつけてよいくらい待たされた。

「手ぶれ補正レンズ」といえばキヤノンがすでに5年前に商品化しISレンズとしてシリーズ化されている。(IS=Image Stabilizer)はじめの一本は75-300mmF4.5-5.6USM、88000円であった。標準ズームから超望遠までラインナップされ、定評もある。

ところがビデオカメラではなく、スチルカメラの手ぶれ補正はニコンが世界初でコンパクトカメラ(といってもちっともコンパクトではないが)「ズーム700VR」を1994年に発売していたのだ。だからすでに量産技術がありながらなかなか交換レンズを出さないニコンはどうしたのだろうと思っていたのだった。

なぜ僕がこの技術を気にしていたかというと、僕は某社入社面接の際、自分の考えるカメラの将来技術として、ぶれ補正の話をしていたからだ。当然自分がやるつもりで話していたのだが、携わることが出来なかった技術なので気になるのだ。

ここでは、現在僕の考えるこの種のレンズに関する技術的疑問点と、商品企画面の疑問点を提示しておきたい。

さて、キヤノンニコンの二社が出すこのレンズは、技術的にそう大きな違いは無く、ニコン700VRで採用した中間レンズシフトによる光軸ずらしの方式である。センサは角速度センサ(ジャイロ)を採用している。

実はスチルカメラよりも前にビデオカメラで手ぶれ補正搭載機はキヤノンの技術でソニーから商品化されていたが、このときはレンズの前に「バリアングルプリズム」という平面ガラス二枚の隙間に光学液体(シリコンオイル)を入れ、平面ガラスの一方を傾け、これによって光軸をずらす方式だった。これだとプリズムを介するので、色収差が起きる。

これよりもレンズシフト方式のほうが優れているようだ。しかし、ニコンVRズームの場合、レンズシフト量は2ミリにもなるという。一般にこういった偏芯したレンズは、光学性能を悪化させる。当然設計者は、出来るだけ光学性能を落とさずぶれ補正の可能なシフトレンズを光学系に挿入しているのだが、これと普通の光学系のどちらが光学性能が良いかという問題だ。手ぶれの像劣化のほうが、レンズシフトの劣化よりも大きいから効果があるのだ、という論理は成り立つが、では例えば補正をオフにして通常レンズとして使う場合はどうであろうか。

シフトレンズの機械的精度の問題もある。ボイスコイルモータで動かす為に相当軽く動くはずだがその制御精度、光軸中心への復帰、レンズの傾き抑制、様々な精度問題が「動く」ことにより生じる。ピント合わせについても同様な問題が起きるが、光軸方向の動きなのでまだましである(?)。

レンズシフトに問題がないように作られていると分かっていても、特に天体望遠鏡光学系の芯出しをいい加減にすると、いかに見栄が落ちるかを身をもって体験しているので、俄には信じられないだけなのだが。

そして、僕が技術的疑問点として、(本来ぶれ補正制御が一番新しい技術であるのに)光学性能にこだわるのは、このレンズの商品企画に大きな影響を与えると考えているからである。

2001年1月20日