変身!?改造アミチプリズム
こんなの作ってみました。
変身、ではなく「偏心改造アミチプリズム=正立天頂プリズム」です。のっけから親父ギャグでスミマセン。。
こんな風に入射側と出射側がずれて(偏心して)います。これでちゃんと光が通ります。
で、唐突に何のことかと言いますと、天体望遠鏡のうち、屈折望遠鏡やシュミットカセグレン望遠鏡など接眼部が後ろについている大半の望遠鏡は、星=天空を見るときには「天頂プリズム(ミラー)を付けないと首が曲がりません。
で、直角に曲がるようにつけるのですが、反射鏡で曲げるので「裏像」になります。
つまり「倒立裏像」です。
これは大変都合が悪いのですが、「止むを得ず」使っているのが現状です。
ここに「アミチプリズム=正立天頂プリズム」という救世主があります。これですと「正立正像」なので完璧です。
購入したのは中国製ですが2インチスリーブ用の大型アミチプリズムで、結構良い製品だと思います。
なのに全然売れているという話は聞きません;)。
なぜかというと、「アミチプリズム」は「ダハプリズム」なので天体用には向かないからなのです。
ではなぜ天体用に向かないのかという説明をします。
これがアミチプリズムの形状と、光の進路です。
この「ダハ面」は屋根型になっていて、ドイツ語でダハ、英語ではルーフプリズムと言います。
ど真ん中に屋根形状の「稜線」があって、左右反転させて正像にするのです。
ところが、天体望遠鏡のように100倍以上の高倍率で見ると、左右の光が偏光を起こし互いに干渉してコントラスト、分解力が低下します。高級双眼鏡では「位相差補正コート」や「銀蒸着」がついていてこれを防止しますが、天体用には聞いたことがありません。
さらに屋根型が正確に90度にできていればいいのですが、その製造誤差は二重像になってしまいます。天体望遠鏡の場合、分解能が1秒を切るので、そのような精度では到底できません。だから高倍率では使えません。
また、稜線はわずかにエッジの凹凸ができるので、ここで光が乱反射して光芒が出てしまいます。
このようにダハプリズムは双眼鏡には良くても、天体望遠鏡の性能に見合うものが作れず、あくまで低倍率用として使われています。当然アミチプリズムも同様です。
で、この光路を横にずらしたものがこれです。
入射側2からダハ面で反射した光は、出射側3で反対側にずれて出てきますがこれでも像は歪みません。
さらにこの図では入射光線はダハ面稜線に若干引っかかっています。
本来、これが完全に稜線から外れているのが理想です。そういうオフセットダハプリズムは結構あって、フィールドスコープ=地上望遠鏡に使われています。
しかし、プリズムの大きさが大きくなり、その割には光束径が小さいのが難点です。
そこでここでは若干ダハ稜線にかかっても、視野中心部には影響がないのを見越して、プリズムの大きさと光束径をバランスさせようというのです。
そこで実際に試作してみました。
元々は先述の2インチアミチプリズムですが、スリーブをアメリカンサイズ(1+1/4インチ)にしました。
入射側
出射側
赤線がそれぞれの中心線ですのでこれだけずれていますが光路中心に一致しています。
さらに簡単にスリーブを交換して、元の2インチにもなりますので、低倍率観察で広視界のアイピース使用時はこちら、
偏心させたアメリカンサイズ時は、高倍率の惑星観測用途に向いています。
何より、正立正像で、しかも分解力は確保されており、全反射プリズムなので光量ロスもありません。
実際に天体望遠鏡につけてみました。
ニコンNAV-12.5HWは102度の広視界で、アメリカンサイズなので風景、この場合野鳥観察にもよかったです。
難点は、このプリズムに限らず、大きなプリズムは、天体望遠鏡のうちF値の明るいF5以上のものでは球面収差が発生してしまいます。しかし、シュミットカセグレン望遠鏡のようなFの暗いF8ー10以下ならばまったく問題なく、正立正像の「正しい」惑星が観察できます。
予想通り良いものができました。
ちなみに、試作したのは2015年夏でしたが、、来年のネタに仕込んでいましたが、なんと、天文界で有名な「EMS」発明者の方がまったく同じアイデアを試作されていたのでびっくりして、急遽、筆者もやっていたんだよと書いてみました;)。