naka-maの心言・2

http://naka-ma.tea-nifty.com/butubutu/ 「naka-maの心言」続編です

HDR=ハイダイナミックレンジを使う理由

筆者はここのところ画像を合成することが多い。
特にHDR=ハイダイナミックレンジと最近呼ばれる、階調(写真用語ではラチチュード、電気用語ではダイナミックレンジ)を広域に拡大し、適度に圧縮するために使うことが多い。

いささか技法に溺れたところもあるのだが、階調をいかに保持して写真に再現するかは永遠のテーマである。これは人間の目が持つダイナミックレンジに写真が追いつかない為である。
もちろん表現手法によっては、白とびや黒つぶれを強調して、ハイコントラストで見せることが行われ、とくに1970-80年ごろの写真雑誌はこの手の写真であふれかえっていた。一方ではフィルム技術的にラチチュードを広げることができなかったのである。

大判のフィルムであるほど階調が豊富になるのだが、35mmフィルムでも希釈現像や覆い焼き、焼き込みをプリント時に行ったりすることで救済を試みられてきた。
デジタル写真になって、フィルムにもましてラチチュードが狭くなったのでHDRが注目されるようになった。

一方、筆者にとっては風景写真を撮影する中で、どうしてもやりたかったことは夕日の再現であった。
夕日は太陽と風景の光量差が小さいので肉眼では美しく見えるのだが、写真に撮るととたんにシルエットになってしまう。特に奈良の風景にこだわっていた時期は、奈良の写真家で有名な入江泰吉の写真で見る美しい夕景写真をめざしていたが、なかなか撮れなかった。
入江泰吉はどのようにしていたのか知らないが、奈良の霞んだ夕日がちょうど良い減光フィルタになっていたのか、そういう気象に出会うのは地元でないとないのかもしれない。


ということで、夕陽の写真である。
これは奈良斑鳩法隆寺である。ニコンD200で手持ち連写でブラケット(段階露光)撮影したもの三枚を合成した。

斑鳩夕日

20070504163449012

白川郷合掌造りの夕日

20070804172122

この写真は以前にもこのブログに出したりしたが、陰影を弱くしすぎたので夕日らしくなくなり、再度画像処理し直した。

さてこのHDRは、むろん以前からこのての合成は行われていたが、SF映画などで暗い空と明るい地上の合成場面でのおどろおどろしい雰囲気が印象に強く、そんな写真が多く見られる。
しかし、階調拡張の考え方のはじめは天体写真で用いられた。
筆者も1991年に皆既日食の写真を段階露光で撮影し、合成を試みている。このときデジタル写真で行ったのはアマチュアとしては筆者は最初期ではないだろうか。
以下、筆者の当時の投稿。

「月刊 天文」1992年1月号に掲載。
(ここから)
写真は、メキシコ皆既日食を段階露光したもの3点をコンピュータ合成したものである。原版はほぼ同時刻に撮影した3枚のネガで、各々をフィルムスキャナで読み込み、パソコン上で合成し、フルカラープリンタで出力した。

太陽コロナは内部と外部の輝度差が非常に大きいため、写真で目で見たイメージを再現するにはニューカーク法など特殊な技法が必要だが、撮影本番では一発に賭ける危険も大きい。その点、コンピュータ・コンポジット法なら話が簡単である。ディスプレイを見ながら濃度、色の操作もでき、撮影者が直接手を下せるのがメリットだ。

画像合成用のパソコンは、マッキントッシュ2(注*後述のショールームで)を使用した。このパソコンは、フォトレタッチソフトを使えば32ビットカラー(注*24ビットのこと。アップルではこう言っていた)の合成写真が簡単に作れてしまう。

後はパソコンの入出力だが、ニコン電子画像機器ショールーム「VISUCOM LAND」でフィルムスキャナーとプリンターを使用することができ、パソコン画面ではなく紙に出力することができた。

出来上がった作品は、プロミネンスから外部コロナまで連続的に再現することができたと思っている。ただ、プロミネンスが内部コロナと分離できず、白くなってしまったのは残念だった。プリンターの解像度は水平1280ドットで、まだ写真の解像力に及ばないが、撮影時に段階露光しておけば良いので、スキャナーやプリンターさえ安くなればこの方法は有効ではないだろうか。

私は現在、星雲の撮影、たとえばM42(注*オリオン星雲のこと)のトラベジウム(注*星雲内にある4つの星)と外部のガスを同時にプリントするのにこの手法を用いることを考えている。

撮影データ:1991年7月11日 18h52m(UT.3枚とも)ニコンFE2、ニッコールED300ミリF4+x2テレプラス、露出1/500、1/30,1/2(上から)、富士カラーリアラ

画像合成データ:ニコン35ミリフィルムスキャナーLS-3500にて原版をスキャン、マッキントッシュ2にて画像合成、出力はニコンフルカラープリンターCP-3000使用

(ここまで)

折角なので?、当時のネガを使ってふたたびHDRを作成してみた。記事の写真とは別の時刻(18時58分)で露光は1/250,1/60,1/15,1/4,1,2秒を合成した。フィルムスキャナはNikonLS2000を使用。

PhotoshopCS3による合成画像
910711-250+60+15+4+1+2np.jpg

ステライメージ5回転アンシャープマスク+PhotoshopCS3による合成画像。
このほうが見た目に近いが、処理により画像が荒れてしまう。
1991.7.11皆既日食


1/250秒
910711-250-np.jpg

1/15秒
910711-15-np.jpg

2秒
910711-2sec-np.jpg

記事の中で書いている「オリオン星雲」の合成は、デジタル一眼レフカメラを使えるようになった2003年にようやく実現した。これもこのブログに出てきたが、これを機会に再度作成してみた。画像処理ソフトとそれを扱う技術の進歩;)が表われている、のだが。

オリオン星雲

M42オリオン星雲


(以下、次号;)