naka-maの心言・2

http://naka-ma.tea-nifty.com/butubutu/ 「naka-maの心言」続編です

デジカメローパスフィルタの行方・・CP+2012を見て(2)

写真には解像度の根拠として、鑑賞距離、これを写真の対角線長さに等しいとして、視力1.0の人が見た時に見極められる限界まで解像できていれば良い、という定義が有ります。従来のフィルムカメラの時代から続いて来たものですから、カメラレンズの解像度や収差、カメラのピント(AF,MF問わず)精度、フィルム粒子、引き伸ばしレンズ、印画紙、全ての基準がこれで決まっています。

 

この定義と,フルサイズ600万画素のデジカメにおける1ピクセルの解像度を比較したグラフが下図です。

 

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横軸はレンズの焦点距離で、縦軸には1ピクセル当たりの角度を秒単位(1秒=1度/3600)で表しています。望遠レンズになるほど大きく拡大するのでより細かい解像度が必要であり、撮影もより細かく写ります。
600万画素のグラフと鑑賞による必要解像度がほとんど一致したため一つのグラフに見えます。
一見これがバランスが良いように見えますが、実際には1ピクセルがぎりぎり見えてしまうような解像度では心許ない、と分かるでしょう。オーバーサンプリングが最低でも2倍必要なので1200万画素がもっともバランスが良いといえるのです。ちなみにAPSフォーマットのデジカメで600万画素が同じくらいです。

 

つまりフルサイズで1200万画素、APSサイズで600万画素のデジカメで撮影したプリントを、鑑賞距離を守って鑑賞した場合、もっともバランスが良い、と言えるわけです。

 

しかし、先述のモアレ対策のために、ローパスフィルタを入れてわざと解像度を落として撮影するわけですが、ここで前回の1000万画素シミュレーションを見てください。ローパスフィルタ相当としてぼかしている量は、実はピッチ間隔の2倍なのです。つまりそのままでは、折角持っている撮像素子の半分の解像度しか発揮できないのです。もっともこれはサンプリング定理にあるように「復元」可能なので大きな問題にはなりません。が、本来のレンズ性能ではないことは違い有りません。

 

一方、写真の鑑賞距離の定義は四つ切りサイズを前提に、鑑賞距離が「明視の距離」、すなわち目の疲労が少ない約250mmの距離、としているもので、もっと大きなプリントサイズではやや遠くから見ることになるのです。もちろん写真や絵画の全体を見るには都合が良いのですが、それは主題にもよります。
写真でも絵画でも、ポートレート、スナップ写真のような大きく全体を見る主題ならば問題ないのですが、風景写真や集合写真、細密画はやはり近づいてみてみたくなる主題です。
これを一概に「パソコンで無理矢理拡大してみるのは意味がない」というのと同列に片付けてしまうわけにはいかない、自然なユーザー要求なのです。

 

もうひとつ、写真は一般の望遠鏡のような光学製品で使われる「分解力」の定義を無視している光学機器でした。はっきり言ってカメラレンズは望遠鏡よりもワンランク下の性能でも許容されて来たのです。

 

 

望遠鏡、といっても無限遠を見ることを前提とした対物レンズととらえればカメラレンズと同じものですが、その分解力はレンズの口径D(mm)で決まります。だいたい120/D(秒)で算出されるものですから、口径が大きくなるほど分解力は小さく=高くなります。
写真レンズの場合、露出を合わせたり、被写界深度を操作したりするために「絞り」がついています。カメラの常識として絞りを絞るほどシャープに写る、と言われていますが、これは間違えです。絞りは開ける方が口径が大きくなるので分解力が上がるのです。
しかし、写真では開放絞りでの光学収差、球面収差、非点収差などが悪いことが多く、絞ると改善しますし、被写界深度が深くなることでピントの狂いも目立たなくなることで、絞るとシャープになる、と思われて来たのです。(画面全体的ということでは正しい話ですが)
ところがデジカメになって鑑賞距離も無視されたパソコンでの「等倍」鑑賞がさかんになったため、カメラレンズがここへ来てコントラスト重視から解像力重視の設計に転換しました。さらに製造技術の向上のおかげで最新のレンズは格段に良くなっています。ですから光学的分解力を十分発揮できる性能を持っています。初期のデジカメはコンパクトデジカメしかなく、極小さな撮像素子上で光の回折現象が問題になった関係で誤解を招いたこともありますが、現在のフルサイズカメラならばレンズの分解力をフルに発揮できる状況に有ります。

 

そこでレンズの分解力とデジカメ画素数の関係をグラフにした図を示します。なお、本来分解能は点光源2個の中心間隔なので、ピクセルに合わせて1/2にしています。が、どこかで間違っているかもしれませんが「傾向」としては合っているはずです。とあらかじめ謝っておきます;)

 

Pixel1 (2020/5/18訂正)

 

1200万画素のグラフよりもF16に絞り込んだレンズ分解力のグラフの方が下に有るので、ほとんどレンズの全絞りを使えるということになります。ということは逆に本来持っているレンズの分解力を生かしきれないということです。
さて、D800を想定した3600万画素デジカメのグラフはF16付近(F4とF8の間:2020/5/18訂正)にあります。これの意味する所はレンズの絞りをF16まで絞り込むとデジカメの画素よりも回折によるボケが大きくなるということです。「高画素否定派」はこれをもって高画素に意味無し、と断じるのですが、そうではありません。
モアレの出るかどうかぎりぎりのところで、絞りを絞れば、モアレが消えるということなのです。前回の4000万画素シミュレーションの図でわずかにぼかしただけで残ったモアレも消えることが分かります。これによってローパスフィルタ無しでもレンズ性能の限界いっぱいまで引き出すことができるわけです。以下次号;)