フラッシュ内蔵カメラの行方
10月の台風と長雨の異常気象(これも異常なのかこれからは平均なのかわかりませんが)が終わって、11月になってようやく秋の青空が見られるようになってきました。しかしながらこれといったネタもないので、今回はカメラ内蔵フラッシュの件を書いてみます。
そもそもフラッシュとは、フィルム感度が50とかの時代に室内での撮影ができるようにフラッシュバルブ(閃光電球)を焚いたのです。正確にはそれ以前、マグネシウムリボンを焚いた(燃やした)のを電気的に電球内にあるアルミやジルコンをタングステン線で燃やしたのでバルブは使い捨てでした。
それをキセノン管の閃光で繰り返し使えるようにしたのがエレクトロニックフラッシュです。
今ではフラッシュといえばこれのことで、ストロボ、スピードライトなども同じものです。
自分が子供の頃、写真好きの父親は、ペトリカメラにカコの小型ストロボをつけて撮影していました。当時としてもかなり小型のシステムでしたが、普段からフラッシュをつけておくには邪魔なので、旅行に忘れて困っていました。
1974年に小西六写真工業が量産型世界初のフラッシュ搭載カメラ「コニカC35EF」を発売しました。
ピッカリコニカの愛称で当時のトップシェアでした。まだコンパクトカメラの名称はありませんでしたが、レンズ固定式カメラの大きさの中でフラッシュを内蔵するのは大変なことです。当時のカメラの電源はボタン電池でしたが、それではフラッシュに足らないので乾電池を内蔵し、さらにフラッシュチャージ用のコンデンサーも内蔵しなくてはならないのです。それらを解決した上にボディをプラスチック化して質量も抑え、それでいて価格も抑えたのですからバカ売れしました。
ちょうど自動露出が技術的に確立できた頃でした。しかし自動露出なら写るだろうと薄暗いところでもフラッシュなしで撮影して失敗することが多かった時代で、それを改善するため開発したという話です。ちなみに営業側はこんなカメラは売れないだろうと言ったとか。
その後もコニカはオートフォーカスや自動巻き上げを入れてきてコンパクトカメラのジャンルを確立しましたが、結局キヤノンオートボーイがその代名詞になりました。
一方、レンズ交換式カメラ、つまり一眼レフカメラですが、なかなか同じようには変化しませんでした。レンズマウントの強度を確保しながらプラボディにする設計製造技術は自動巻き上げ、オートフォーカスの導入とほとんど同時、そしてフラッシュの内蔵はそれに一歩遅れる形でした。
というのも形状的にどこにフラッシュを組み込んだら良いのか試行錯誤があったのです。
オリンパスは小型軽量にこだわった会社で、コンパクトカメラがフラッシュ内蔵が主流になった後も、1979年のXAのようにフラッシュを外付けすることにこだわったカメラですが、一体型に見えます。
そのオリンパスが出した初めてのAF一眼レフOM707は初のフラッシュ内蔵でしたが、その位置はグリップからポップアップするもので、これだけに終わりました。
1986年、ヤシカを引き継いだ京セラのA210,230AFのようにペンタプリズム部にかぶせるようなフラッシュを専用に組み付けたのです。
やっぱり不恰好でしたね。
現在も主流の、一眼レフに内蔵するフラッシュの位置は、ペンタプリズムに折り畳み可能に設置さるものですが、この一号機はペンタックスSFXでした。1987年でした。
その数ヶ月遅れで、初物の称号を逃したのはニコンF401です。
あえてなのか、フラッシュの位置はペンタプリズムですが畳んでいても発光部が見えるのは、フラッシュ内蔵を目立たせるためか?
内蔵フラッシュを立ち上げるとペンタックスよりも高く立ち上がるのは、けられ防止で良いことなのです。
なのに収納時にはフラッシュがあまり邪魔にならないようになっています。
このようにして内蔵フラッシュはペンタプリズムに、というのがデジカメ時代になっても続いており、耐衝撃性のうるさい「プロ」機以外は標準装備になっていきます。
筆者のニコンD810Aもフラッシュ内蔵です。
立ち上げた時のフラッシュの位置はますます上に上がっています。
上に上がるのはけられ対策で結構なことですが、畳んだ時にF401の頃と違い、完全収納のためエンブレムが前に張り出しています。これはシフトレンズには邪魔になって不利です。
しかし、フラッシュ機能はどんどん進歩して、このD810Aは外部フラッシュを内蔵フラッシュで制御できます。
ニコンでいうところのクリエイティブライティングシステムで、内蔵フラッシュをコマンダーとして単に同期だけではなく発光光量を複数のフラッシュ合計で制御できます。
スピードライトSB-600の側面にあるコマンドライト受光部です。コマンドを光通信で送るというのはニコンが初めてやりました。
内蔵フラッシュは正面からストロボ一発、という決して上手くない写真になるが、しかし写らないよりマシ。さらにバウンズフラッシュなどをケーブルレスで行えるのでとても重宝します。
ところがキヤノンのフルサイズデジイチは下位クラスのEOS6Dでも内蔵フラッシュはありません。
キヤノンの宣伝文句はプロ機にはフラッシュはいらない、フラッシュがないから上級機だと。
最近のニコンはどうもキヤノンを見習っているようで、D500はフラッシュ無し。
こちらはAPSサイズのプロ用機なので、という理解でしたが。
なんとD810の後継機、D850まで内蔵フラッシュ廃止。
最近人気のソニーα7シリーズも内蔵フラッシュ無し。
となれば本来ニコンは他社にない内蔵フラッシュをどんどんブラッシュアップしていけば良いのですが、ソニーにも抜かれたということらしいので、あたかも内蔵フラッシュがあったから負けたみたいな新製品企画が大変気になります。
内蔵フラッシュのデメリットはメーカーにとって設計が大変、コストアップ、質量アップということだと思いますが、この30年でここまで進歩してきたのではないですか。製品の値段も質量もD850になって下がったわけではなく、むしろ上がっています。
これで中級機D750の後継機まで内蔵フラッシュをなくせば、ニコンは完全に負けた理由を分析できずにそれを内蔵フラッシュのせいにしているとしか思えませんね。
かつて各社が苦労して内蔵フラッシュを一眼レフにも組み込んできたのに、なんだか簡単に諦めてしまったようです。色々な工夫をしてたどり着いたペンタプリズムの位置がもし問題があったとしても新たな改善はできないものでしょうか。さらに始まったミラーレスカメラの時代、ペンタプリズムがなくなったのですから今こそ頑張って新しい内蔵フラッシュを発明していってもらいたいものです。